先日『ガラパゴス』という本を読みました。
派遣労働者問題をテーマにした、推理小説です。
ガラパゴス
相場英雄 小学館 (2016/1/26)
読んでいてすごく面白くて、次はどうなるんだろうと、ページをめくる手が止まりませんでしたが、
その反面、苦しくて悲しい気持ちを、読了後もしばらく引きずってしまいました。
それは、どんなに働いても報われない、まるで昔の『蟹工船』のような世界が繰り広げられていたからです。
知識も豊富で、実力もある。
なのに、いったん「正社員」というレールを外れてしまったら、
そこからもう一度這い上がるのは、どんなに才能があっても難しい。
これは、小説の中だけではなく、現実社会をそのまま映し出しており、
私たちの今すぐそこにある問題で、
我々はいつでもその状況に置かれる可能性があるだろうと思ったのです。
『ガラパゴス』に出てくるのは、
人のためなら、自分が犠牲になってもいいという男性でした。
能力もあり、性格もよく、過酷な状況に置かれても人を恨まない。
人間的に素晴らしいのに、どうして報われなかったんだろう。
能力があるのに、どうしてそれを活かす仕事に就くことができなかったんだろう。
小説で、架空のお話ではあるのですが、
なぜか私は、その考えを止めることができませんでした。
そういった中、『頭に来てもアホとは戦うな!』という本を読みました。
頭に来てもアホとは戦うな!
田村耕太郎 朝日新聞出版 (2014/7/8)
タイトルにある通り、日本ではアホが出世しやすいから、
そこに正論をぶつけて戦うよりも、
うまく転がして自分の大志を完遂せよ、という内容で、
普段の生活、というよりも、組織での生き残り方についての本でした。
以下、簡単にまとめると、
誰かに正論をぶつける、ということは、思いのほか時間とエネルギーを使うもので、
そのくせ前向きな成果を生み出さない。
それよりは、自分のやりたいことをブレずに持ち、
(やりたいことがないなら、ただ目の前のことを一生懸命に行い)、
自分の目標を達成するためには、アホの力も必要ならうまく付き合うし、
必要ないなら適当に流す。
決して、正面切って喧嘩をしない。
ナイーブ(子どもっぽいという英語本来の意味)で純粋でまっすぐな人は、
アホな連中と無駄に戦ってしまい、
やがて心が擦り切れてしまう。
喧嘩して友情が深まるのは、現実世界ではありえない。
「金持ち喧嘩せず」という言葉があるように、戦わずして勝つやり方を選ぶこと。
相手がやられたと気付かないように、相手の力をうまく使いながら自分の欲しいものを手に入れていく。
正面切って戦って、返り血を浴びたり、恨みを買ったりしないように、静かに確実に目的に近づけばいいのだ。
(p.46 l.10-13)
また、会社の中で報われていないと感じている人に対しては、
「頑張れば誰かが見ていてくれるもの」という甘い考えは捨てて、ちゃんと自分の実績は正々堂々と上司にアピールしよう。
前述のごとく、部下が一人の上司をじっくり見るほど、上司は部下一人ひとりをしっかりと見られない。
(p.121 l.7-10)
というアドバイスを送っています。
『ガラパゴス』では、派遣労働者は、まるで使い捨ての部品のように扱われています。
しかし、それでもやはり、ただ誠実に仕事をこなすだけではなく、
周囲へのアピールは必要なのかもしれません。
『頭に来てもアホとは戦うな!』では、『無頼派は楽だが損』という記述もあります。
組織力の強さの前では、天才一人など、凡人数名のチームワークで代替可能。
誠実に仕事をしつつ、裏では権力闘争の情報をアップデートしておくこと。
そこに巻き込まれた場合のシミュレーションをしておくこと。
派遣労働問題と、組織での生き残り方とではまったく問題が違いますが、
それでも、もし本当に能力があって、その才能が活かしきれていない労働環境にいるのなら、
自分の生き残りをかけて、アホをうまく活用して、
転んでもただでは起きない、狡いくらいの骨太な生き方をしてほしかったと、
なぜか架空の登場人物に対して思ってしまうのでした。